齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

「レイプ大国」スウェーデンの不思議

強姦だらけの幸福な国?

 

10万人あたり69件。

 

これがスウェーデンのレイプ発生率です(Swedish National Council for Crime Prevention、2014)。先進国中で飛び抜けて多い(日本は同年1.1件)。

 

スウェーデンは難民を積極的に受け入れる国であり、ネトウヨや排外主義者たちによって「スウェーデン人は難民にレイプされている!」と主張されています。 

 

でも、スウェーデンは世界で10番目に幸福な国とされており(世界幸福度報告、2017)、福祉の手厚い公平でオープンな社会として有名です。そんな国がレイプ大国なのでしょうか。

 

調べてみました。

 

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首都ストックホルムの街並み 

スウェーデンはなぜレイプが多いのか

ネット上では以下のような意見が散見されます。

スウェーデンでは、イスラム教移民の多い地区はスラム化、そこでの暴動は頻繁に起きている。1975から犯罪は300%増、うち性的暴行事件は1,472%増で、レイプ件数は世界で2番目に多く社会問題となっている。米国より15%も警察官の数が多いにもかかわらず、米国より夜道を歩くのは危険とされている。

 (スェーデンは移民政策で経済破綻の危機 - trendswatcher.net

 

外国の情勢に疎い一般的な日本人にとって、スウェーデンは「移民でめちゃくちゃになった国」とみなされています。日本は移民がいないから犯罪率が低くて平和な国なのだと。

難民やその子孫が人口の2割を占める

確かにスウェーデンは移民を受け入れてきた国です。

 

もともと貧乏農業国家で移民を送りだす側だったスウェーデンは、戦後転換して移民を積極的に受け入れるようになった。

 

「黄金の60年代」と呼ばれる好景気の時代には外国人労働者を積極的に受け入れました。その後経済的に低迷すると移民は減りました。

 

1989年には難民を受け入れるため「外国人法」が改正された。チリ、イラン、イラク、ソマリア、そして旧ユーゴスラビアなどの紛争地域からの難民を受け入れました。

 

移民は家族も呼び寄せることができたため、いまでは移住者のほとんどが難民という状況になっています。

 

「外国に背景を持つ人」 (外国で生まれた両親をもつスウェーデン生まれの人+外国生まれの人)は、2012 年時点で200万人近くいます(SCB Statistics Sweden)。

 

これはスウェーデン総人口の20.1%であり、首都ストックホルムでは29.5%を占めています。

 

では、移民が増えたからレイプが増えたのでしょうか?

拡大されるレイプの定義

主な原因は法改正にある、とスウェーデン政府は主張します。

 

スウェーデンではなんども法改正が行われ、レイプの範囲が拡大しています。

 

以下スウェーデン政府のサイト(Facts about migration, integration and crime in Sweden - Government.se)から引用します。

レイプの件数は上昇している。しかしレイプの定義は何度も拡大され、そのことが数字を比較することを難しくしている。また、外国と比較することはミスリードである。スウェーデン法でレイプとみなされることは他の多くの国ではそうではないからだ。

 

たとえば:妻が夫に毎晩レイプされたことを通報した場合、一年にレイプ事件が365件発生したとみなされる。多くの外国ではこれは1件の犯罪とみなされるか、あるいはまったく犯罪とはみなされない。

……妻に性的強要を繰り返すと、連続レイプ犯になるということです。たぶんこれがレイプの数を著しくあげている主要な原因でしょう。

 

スウェーデンにおけるレイプの定義は「男性または女性に対して個人あるいは集団によって行われた同意なしに強制された性交」と定義されています。

 

近年スウェーデン政府はレイプの解釈を広げ、性交だけでなくそれに類する性的行動もレイプだとみなされるようになった。例えばオーラル・セックスの強要はレイプになります。

 

これはニュースにもなりましたが、2018年から同意なしの性交は強制がなくてもすべてレイプとする法案が通っています。

 

またスウェーデンは犯罪統計が特殊であり、「レイプ被害を受けた」と報告された段階で統計上はレイプ事件と分類されます。レイプが実際にはなくても、未遂であってもレイプ事件に加算されることになります。

 

 

レイプの増加は男女平等の結果

スウェーデン政府は次のようにも主張します。

犯罪を報告する意思についても、国家間で大きく異なる。このような犯罪がオープンに話され、被害者が非難されないような場合では、通報されるケースが増えることになる。スウェーデンは、女性に犯罪行為の報告を促す意識的な努力を行っている。

多くの国でレイプの被害報告は制限されます。いくつかの要因があります。

  • 性的暴行を受けることが不名誉だったり恥とされる文化。
  • 被害者が非難されること。
  • 加害者が知人や身内であること。
  • 被害者が未成年や低年齢であること。
  • 学校が性犯罪の通報を抑止すること。
  • 司法制度や警察への不信。

また、被害者が「完全な」被害者像ではないーーたとえば不美人や肥満者、高齢者、男性である場合、報告されないケースが多いようです。(Everyday Feminism

 

以下は、レイプ報告を妨げるような文化要因のある国の地図です。

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スウェーデン政府は努力しているみたいですが、まだ黄色(女性のレイプ報告を妨げる文化的障壁がしばしば存在する)のようです。日本は橙(女性のレイプ報告を妨げる著しい文化的障壁が存在するが、報告した場合に身体的拘束が存在しない)。ちなみに赤い国はレイプを報告すると女性に非がなくても追放や体罰、死刑を受ける恐れのある国。

移民が犯罪を増やしているのか?

レイプや他の犯罪は移民が増やしているのか?という疑問に対してもスウェーデン政府はノーと言います。

スウェーデンで犯罪行為を受けた人の人口は2015年度で13%で、数年前よりも上昇しているが、2005年と同じレベルである。

 

スウェーデン犯罪防止全国委員会の2005年の調査によれば、犯罪容疑者の大部分はスウェーデン生まれの両親によって育てられたスウェーデン人だった。この研究は外国のバックグラウンドを持つ人々の大多数に犯罪容疑がないことを示している。

 

外国のバックグラウンドを持つ人は、スウェーデンのバックグラウンドを持つ人も犯罪容疑者として疑われやすい。最新の研究では、前者が後者よりも2.5倍容疑をかけられることが明らかになっている。

 

近年の研究では、ストックホルム大学の研究者たちは移民と他の人々の犯罪活動の主な違いは、スウェーデンで育ったときの社会経済的な状況にあるとした。これらは両親の収入や、個々人が生まれ育った地域の状況といった要因を意味する。 

犯罪学では、ほとんどの犯罪は「金と異性」を求めての行為だとされています。それらが比較的容易に手に入る社会的地位の高い人々は、移民だろうと犯罪傾向はないということです。

 

平等を重んじるスウェーデンですが、移民の社会的地位が低い傾向はあるようです。解雇規制が強く賃金格差が小さいため雇用のリスクが大きく、スウェーデン生まれの人を採用する保守的傾向があるといわれている。

移民人口の多さと経済への影響

レイプとは関係ないですが、スウェーデンが破綻寸前と考える人もいるので政府の主張を引用します。

スウェーデンの経済は力強い。スウェーデンは2015年は財政黒字だった。そしてこの黒字は2020年まで続くと予測されている。

 

更には、スウェーデンは直近の二年間、ヨーロッパでもっとも成長率の高い国のひとつである。若年層の失業率は徐々に下がり、現在は過去13年でもっとも低くなっており、長期失業率(12ヶ月以上)はEUでもっとも低い。

 「仕事が移民に奪われる」ということもないようです。

補遺:メキシコよりも怖い「夜の日本」

多くの人が勘違いしているのですが、日本は実は「夜道を歩くのが怖い国」です。

 

2005年度のEuropean Survey of Crime and Safetyの調査によれば、「暗くなってからの路上で不安またはとても不安に感じる人の比率」はスウェーデンは19%。米国は同率です。

 

そして日本は35%です。

 

治安の悪そうなメキシコは34%ですから、実は日本はメキシコよりも「夜が怖い」国なのです。 

 

日本は安心な国ではありません。特に女性にとって。

 

日本の「通報されない性的被害」はガルちゃんを見ればいいと思います。ソースはガルちゃん笑

「痴漢にあわない人は滅多にいないと思うんだけど。」

「痴漢遭遇率は相当高いと思うよ」

「普段から満員電車に乗ってる限り、痴漢にあったことないって人は皆無だと思う。 少なくとも私の周りでは。 」

「小学生の頃からずっとあるよ。 」

「商店街を友達と歩いてたとき、前から来た自転車乗ったおっさんとすれ違いざまに胸鷲掴みされた。」

「電車だけじゃなく、道も注意だよ!
駅に向かう道で人通りはあるんだけど、朝早かったから まばらだった時に後ろからバイクでお尻触られた。」

痴漢にあったことある人 | ガールズちゃんねる - Girls Channel -  

これらの性的暴力の多くはスウェーデンでは通報され、場合によっては「レイプ」として加算されるかもしれません。

 

関連:カナダ人女性が千代田線で受けた痴漢被害と警察の対応

スウェーデンは女性が幸福なレイプ大国だった

  • レイプとみなされる犯罪が諸外国よりも広範かつ件数が多くカウントされるため
  • 司法制度への信頼があり、女性がレイプを通報しやすい社会的文化的環境が整っているため
  • 政府が未報告のレイプを減らす努力をしているため

以上の理由でスウェーデンは「レイプの多い国」となっているようです。

 
「移民によってレイプが激増した」のではなく、「女性への犯罪を厳しく取り締まるためにレイプの件数が増加した」というのが実情のようです。 

 

スウェーデン政府は次のように主張します。

統計や事実を隠すことはスウェーデン政府にとって何らメリットがない。それらはオープンで事実に基づいた対話の基盤になるからである。スウェーデンは公的文書への一般市民のアクセスを通じて統治されるオープンな社会である。

うーん、「成功した国」感……。

 

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スウェーデンの田舎をストリートビューで見ると風景の美しさに圧倒される。

 

ちなみに統計上レイプが極端に少ない国としてエジプトがあげられます。十万人中0.1件です(2011)。

 

エジプトは女性旅行者にとって「痴漢大国」で有名ですし、セクハラを受けたことがあるエジプト人女性は99%とも言われています

 

なぜエジプトではレイプが少ないか? ほとんどの強姦が単なる暴行事件として扱われるからです。

 

このようにレイプ統計の国際比較は単純にはいかないのです。

 

犯罪統計は優秀だが、女性が抑圧されている国。

犯罪統計は劣るが、女性の権利が保証されている国。

 

私たちの住む社会は、エジプトとスウェーデンのどちらでしょうか。そしてどちらを目指すべきでしょうか。答えは明らかだと思います。

 

 

外国人恐怖は危険な傾向

世界的に外国人嫌悪が広まっています。スウェーデンでも極右政党が力を持つようになっています。

 

外国人恐怖はもっとも警戒すべき感情です。歴史上の虐殺やジェノサイド、凄惨な社会的抑圧は「外国人」によってではなく「外国人嫌悪」によって起きました。

 

朝鮮人は井戸に毒を入れて日本人を虐殺したーーこれは嘘でした。しかし、日本人は朝鮮人を虐殺しました。

 

人間をもっとも残酷にせしめるのは敵意や嗜虐心ではなく、「他者に対する恐怖」です。排外主義は分断統治の一環であり、外に敵を生みだせば支配者へ敵意が向かなくなる。

 

外国人は恐ろしい――というムードが作られたら警戒すべきだといえます。