齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

悪の核――「ダーク・コア」見つかる

人間の悪の根源――ダーク・コア見つかる。

 

ダーク・コア

 

良い響きの言葉だ。

 

物質や病変としての「悪の核」が見つかったわけではない。 

悪人を示す、ひとつの心理学的指標が見つかったようである。

 

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Last Judgement by Fra Angelico(も使った)

 

 

ダークコアとはなにか?

「ダーク・コア」を提唱したのはコペンハーゲン大学の心理学者、Morten Moshagen, Benjamin E. Hilbig, Ingo Zettlerら。

 

一言でいえば「多様な悪人たちに共通する、悪への一般的な傾向」が実証されたということだ。 

 

心理学では悪人の研究はそれなりに歴史がある。「ダーク・トライアド」は割と有名な概念だ。

 

これは人間の悪のパーソナリティについて、

  • 共感性や同情心の欠如したサイコパシー
  • 自分の利益のために他者を操作し利用するマキャベリアニズム
  • 自分は特別な存在であり他者より優れていると考えるナルシシズム

を三元論的に図示したものである。

 

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しかし、この三元論では悪は把握しきれない。今回のダークコアは、それよりも凡庸性の高い概念である。

 

悪の素因、Dファクター

研究者らはD(Dark)ファクターによってダークコアを持つかどうかを判断できるとした。

 

Dファクターのベースにある概念はG(Genius)ファクター。IQの高い人(天才)は、さまざまな認知能力で優位であることを説明するための概念である。

 

運動神経を考えてみるとわかりやすい。テニスプレイヤーはサッカーや野球が得意である可能性が高い。運動神経とは、特定のスポーツだけではなく運動全般に関わる全般的傾向general tendencyといえる。

 

さて、運動神経やGファクターのように「悪への全般的傾向」はあるのかどうか?

 

「高い知能の人に全般的傾向があるのと同様、悪質な人間にも共通の分母がある」と研究者のZetterは言う。それがDファクターだ。

 

Dファクターを持つ人はさまざまな悪性のパーソナリティを持つ傾向がある。これがダークコア発見の要諦だ。 

 

悪人はさまざまな悪のパーソナリティをとる。ナルシスト、サイコパス、マキャベリアン、サディスト、エゴイスト、自己中心主義など多様である。

 

Dファクターの示すところは、ナルシストはサイコパスである可能性が高いし、マキャベリアンはサディストである可能性が高いということである。

 

そして彼らはみな、非倫理的で自己中心的な行動選択をする傾向がある。盗みや不正、ウソなど、道徳的・社会的に問題のある行動をはたらく可能性が高いということだ。

ダークな人とはだれか

Dファクターの高い人(Dな人)はどんな人か。

 

研究者らによれば「他者の犠牲を容認、無視、あるいは悪意をもって引き起こしながら、自分の利益を最大化するような一般的な傾向がある人」である。

 

当然だが、自己利益を最大化することは悪いことではない。健康のために運動をしたり、気晴らしのために映画を観ることを悪と咎める人はいないだろう。

 

問題は「他者の犠牲」を引き起こす場合である。このことは積極的に害悪をもたらす場合に限らない。「他者が深刻な不利益を被ると知りながら警告を怠る」というような消極的な場合も含まれる。

 

「Dな人」は、他者の不利益を受容したり、無関心だったり、嗜虐的に与える傾向がある。そのときに「彼は不利益に値するのだ」というような正当化がしばしば伴う。この正当化によって、「Dな人」は自らの羞恥心や罪悪感を回避できる。(例「いじめられる方が悪いのだ」、例「私は特別な存在だから他者を利用して良いのだ」)

 

以上は当該の論文と、以下の記事を参考に書いた。

Dark Personality Traits Share A Common "Dark Core," According To A Study — Here's What That MeansStudy Suggests 'Dark Core' Underlies Malign Character Traits

Dファクターを測定してみよう

Dファクターは自己測定できる。おおまかな指標が得られる30問のテストと、精確な60問のテストがある。

The Dark Factor of Personality: Are you D?

 

私のD値は2.43だった(30問テスト)。ランクは44%だから、ちょうど平均レベルということになる。私は悪人でも聖人でもないようだ。

 

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まとめ 悪人は悪人である

ダークコアの発見は、ある意味「悪人は悪人である」というトートロジーである。直感的に理解していた人は多いだろうし、名前のインパクトの割にそこまで意外性はないかもしれない。

 

それでも、これまでさまざまに分類されてきた「悪人」像がひとつの指標によって表されることになった意義は大きい。

 

私たちは日々さまざまな悪人と遭遇する。彼らがその他の悪人の顔を持つ可能性があるということを知っておけば、事前に備えることができるだろう。

 

たとえばナルシシズムの強い人は、マキャベリアン的傾向がある可能性が高いから操作されないよう気をつける。また、他者を傷つけて喜ぶサディスティックな面にも警戒する、というように。

 

Dファクターはさまざまな領域で利用される余地がある。いじめが多発するクラスや、離職者の多い部署には「Dな人」がいるはずである。彼らに対処することは問題解決に役立つはずだ。

 

国家レベルでは、政界や官庁からD値の高い人間を追放すれば平和な社会になる可能性は高い(数人しか残らないかもしれない)。

 

ただし問題点もある。現状Dファクターはアンケート形式、あるいは心理学実験で測定されるということだ。そして悪人ほど善人のふりがうまい者はいない。

 

また、Dファクターはおそらく環境にかなり影響を受けるのではないか。よき夫よき父親がレイプや虐殺をする――そういう例は戦時中によくあった(「普通の人」ほど凶悪になりやすい - 齟齬)。人間は所属する集団や社会的条件の影響を受けやすい。

 

ともあれ、脳神経学の発達によってより客観的に定量的にDファクターを分析できるようになれば利用価値が広がるだろう。

 

これは夢想ではなく、すでにサイコパシーは脳検査によって鑑別可能という主張がある。(Psychopathy linked to specific structural abnormalities in the brain -- ScienceDaily

 

悪人を「除去」できる社会は案外近いのかもしれない。

補遺:ダークコアとアナーキズム

Dファクターとは「他者を犠牲にして自分の利益を追求する」傾向のこと。

 

これはまさしく資本主義であり、国家制度であり、文明である。

 

資本主義は資本家が労働者を犠牲に利益を追求する。国家制度は支配層が納税者を犠牲にする。文明は人間が植物や動物、あるいは他の人間を自分の利益のために支配する。

 

いずれも悪(D)である。

 

このような社会では、詐術、窃盗、闇討ちを罪悪感や羞恥心なく行える人間がトップに上りつめる。すなわち悪人が善人を支配する。 

「悪人を治療できる社会」の実現を

現代社会は悪である。

 

人々は過酷な生活を強いられており、鬱病や貧困、心身の病、孤立、人生の無意味さや空虚さに悩んでいる。

 

そして社会に不適合で脱落するような人には「治療」が施される。しかし、あきらかに現代の「精神病者」はまともで、社会が狂っている

 

治療すべきは諸悪の根源たる「悪人」ではないだろうか?

 

しばしばアナーキズムはユートピア論だと言われる。アナーキズムは人間への信頼、性善説に基づくからである。

 

「悪人」 が 治療あるいは隔離されるときに、アナーキズムは可能なのかもしれない。

 

もちろん、これはディストピアのようである。しかし現在では、あまりに多くの善人が「治療」あるいは「隔離」されている。それが本人のためなのだ、と「正当化」されてもいる。

 

善人より悪人を治療する方があきらかに合理的である。