齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

ベーシック・インカムは「クソ仕事」を殺すか

「実際のところ、二時間で一週間分の仕事を終わらせることができるよ――上司には言わないでくれ!」

 

現代では労働はクソ化しています。

 

必要で価値のある仕事――例えば介護職、保育士、料理人、道路工、理容師は劣悪な労働環境となり「Shit jobs糞仕事」化しています。

 

そして大企業や高所得の仕事は不必要で意味のない「Bullshit jobsクソ仕事」化しています。

 

 人類学者でアナーキストのデイヴィッド・グレーバーは、このクソ仕事が増えていることを指摘しました。

 

そして彼はひとつの政策としてユニバーサル・ベーシック・インカムを支持しています。

 

クソ仕事とは何か? 

UBIはクソ仕事を殺すか?

 

見ていきましょう。

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by Steve Cutts 

 

今回の記事は著書Bullshit jobs(アナーキスト・ライブラリーで全文読めます)の他、インタビュー記事:US anarchist David Graeber’s crusade against the rise of “bullshit jobs”Basic Income & Meaningless Jobs: David Graeber interview & Stenographyを参考にしています。 

クソ仕事とは何か

ホンダでパワーポイントを延々と作り続けるうち、このままで本当に良いのだろうか?

技術者として全く成長できていない。

パワポの紙芝居とサプライヤーの日程管理・問い合わせを定年まで延々と続けなければいけない絶望感に襲われました。

以前はてなブログで話題になった記事「新卒で入社した本田技術研究所をたった3年で退職しました 」から引用です。

 

これは実にクソ仕事的です。

 

もちろん、本田技研の仕事のすべてがクソではないでしょうが、彼は自分の仕事をクソ仕事だと感じていたでしょう。

「本質的には何もしていない」仕事 5種類のクソ仕事

クソ仕事とは、「本質的には何もしていない」ような無価値で無意味な仕事のことです。

 

グレーバーの定義するところでは「それを行っている者でさえ正当化できないほど無意味な事one so pointless that even the person doing it can’t justify it」。

 

彼はクソ仕事を5つに分類しましたので、それぞれ見ていきましょう。

フランキーズ

だれか他人に「自分は重要な人物だ」と思わせるために存在する人。受付やドアマン、会議室を整理する人など。

 

グレーバーは「すべての歴史を通じて、富豪や権力者は下僕や顧客、ごますりやお気にいりを身の回りに侍らす傾向がある」と言う。「側近がいなければ偉くはなれない」。

 

グーンズ

攻撃的な性格を持っている仕事。

グレーバーは彼らを「兵士」と名付けます。もしだれも兵士を持っていなかったら必要がないものだからです。

 

ロビイスト、広報専門家、電話セールス、企業弁護士は社会にネガティブな影響を与えていると彼は考えます。

 

「もしすべての電話セールスが消滅したらこの世界はよりよい場所になるとほとんどの人が考えているだろう」 

「そして企業弁護士、銀行のロビイスト、マーケティングの専門家が煙の中に消えれば、世界はもう少しマシになると私は考える」

ダクト・ペーパーズ

そもそも存在すべきでない問題を解決する人。

 

「清掃はつねに必要だ」「しかしだれかが完全に無神経に不必要に汚したものをきれいにすることは、常にイライラさせられる」

 

設計失敗したコアテクノロジーのパッチ開発などがこれに当てはまります。

 

また、グレーバーは伝統的に主婦はダクト・ペーパーズだとします。彼らは夫を癒やし、神経を落ち着かせ、夫の生みだした問題に対して解決策を交渉するため。

ボックス・ティッカーズ

周囲に向かって何かがなされたと見せるための仕事。社内広報など。

 

「そういった仕事のライターやプロデューサーは市場レートの2倍から3倍の報酬を得る」

「しかしそういった仕事につく人々で、自分の仕事がクソ仕事だと言わない者はいなかった」

タスク・マスターズ

だれか他人のために上記のクソ仕事を生みだす人。彼らが消滅しても仕事は通常通りなされる。

 

グレーバーは「クオリティ」「エクセレンス」「リーダーシップ」「ステークホルダー」といった言葉に警戒せよと言う。クソ仕事の創造者が近くにいるかもしれないからだ。

世の中の仕事の半分はクソ仕事?

はじめ、グレーバーはイギリス人口の15~20%がクソ仕事に従事していると考えました。

 

しかし、彼の行った2015年の調査では、37%のイギリス労働者が自分の労働が世界に「意義ある貢献」をしているとは考えていなかった(そして13%は「わからない」と答えた)。

 

半分程度がクソ仕事の可能性もあるということです。

なぜクソ仕事は増え続けたか

私たちが考えるよりずっと多くの仕事を機械化が奪った。技術を得るようになって人々の労働時間は減るどころか増えた。これが私の理解したいことだった。

 

1930年代、ほとんどすべての手工業が消滅し、農業、家内労働が消えた。しかし管理サービスや事務仕事は3倍に増えた。

現代ではAIが仕事をなくすと言われているが、そもそも近代化の機械化の段階で仕事の大半は失われていました。

 

しかし、その代わりにクソ仕事が増えた!

 

なぜなのでしょうか。資本主義では経済効率が優先されはずです。残酷な資本の論理によって貧困層と失業者が増えるのではなかったか。

 

グレーバーは言います。 

まさにそれがおもしろいことだ。理論上競争的な資本主義社会では起きるべきではないことだからだ。ソ連が就業率を理想レベルまで高めるために、仕事を偽装していたことを私たちは笑っていたはずだ。

 

しかし企業はまったく同じことをしている。君は何もしない人々を雇うことは企業にとって最悪なことだと思うだろう。

 

もし君が人々に企業について話すとすれば、彼らは言うだろう。「私は上司に自分の仕事は必要がないと説明した。すると彼は言った。「だれにもそれを言うなよ。俺は自分が重要だと思わせるために、たくさんの部下が必要なんだ」」 

 

クソ仕事に従事する労働者の存在は、

  • ピューリタン的な労働賛美
  • 「経営的封建主義」で地位を保つため
  • 政治的利便

のために存在していると説明されています。

 

人々をクソ仕事に就かせることは政治的安定をもたらすということです。

 

ジョージ・オーウェルが書いたように、「役に立たない仕事を永遠に続けるこの本能は、その底を見れば、単に巨大な恐怖があるだけである……彼らを考えるには忙しすぎる状態に置くことはより安全である」ということです。 

UBIはクソ仕事をなくすか

クソ仕事は「私たちの集団精神に傷跡をつけ」「内心の苦しみを生む」と彼は考える。

 

彼はクソ仕事をなくすことを望んでいます。つまりクソ仕事の脱クソ化de-bullshitization(すごい単語)。 

 

グレーバーはUBIを支持しています。 

ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)は、所得、財産、雇用状況にかかわらず、国または特定の地域のすべての市民に所与の金額を提供する制度。 

ようは「生きてるだけで金をもらえる」制度です。

基本的にUBIは最低限の生活ができるだけの金銭が与えられると考えてください。

 

現状、クソ仕事をなくそうという社会運動は存在しません。ほとんどの人はそもそもクソ仕事の問題を認識していません。

 

そのなかで、UBIは脱クソ化に効果的であるとグレーバーは考えます。

アナーキズムとBI?

アナーキストは国家と資本主義に反対します。BIはそれらの存在を肯定するので、アナーキズムとぶつかると考える人もいるでしょう。

 

もちろんグレーバーの言うように「いつの日か現在の政府や企業、その他が、スペインの異端審問や遊牧民の侵略のように、歴史的な好奇心によって調べられる日を待ち望む」のですが、それだけではありません。

 

BIは、「政府の権力を強めずに人々に自由を与える」ので効果的だと彼は言います。

 

BIによって人々が自分の判断によって、自分がしたいことをするようになる。つまりアナーキズムの「自己統治」に寄与するために、アナーキストにとってBIは支持できる政策です。 

UBIは「労働と生活を切り離す」

グレーバーはケインズの予測した「週15時間労働」に共感しつつも、UBIがより好ましいと考えます。

 

それはUBIが「労働と生活を切り離す」からです。

 

資本主義は賃金奴隷制であり、人々は「労働か飢餓か」の二択によって労働に縛り付けられています。

 

だから人々はパワハラやセクハラ、低賃金のサービス残業、意味のない仕事で人生を無駄に過ごすことに耐えています。

 

しかし、仕事をしなくても生きていけるようになると労働に対する価値観は劇的に変化することになります。

 

 「UBIは人々にとって何が価値があるかについての深い道徳的変革を引き起こす。」

 

人々は「飢えないために」ではなく、自分のしたいこと、本当に価値のあることをしたいと思うようになります。おそらく、単に待遇の良い仕事だけを選ばなくなるでしょう。

 

栄誉ある仕事、楽しい仕事、技能や知識を身につけられる仕事、自分の能力を最大限発揮できる仕事を望むようになるのではないでしょうか。

自由がもたらす有意義な仕事 

「UBIは基本的に自由である。もしあなたが人々にこういったらどうなるだろうか。「私はあなたたちがどのように社会に貢献したいか、あなたたち自身が決めることを信じる」」

 

「もし君が人々に自分の好きなことだけさせるとしたら、彼らは現在のシステムが課す役割よりも、意味があって有用な物事をするだろう。人的資源のコンサルタントになりたいと思う人などいない。……究極的に人間性への利益は現在のシステムで働くよりずっとよくなるはずだ」

 

人々が、自分の好きなように、本性にしたがって社会貢献する社会――そのような社会の方が望ましいと思いませんか?

 

グレーバーは自らを「プロの楽観主義者」と表現しています。彼は50年以内に、「私たちは資本主義ではないシステムを絶対に持つだろう」と述べています。

 

しかし、彼は続ける。「それはなお悪いものかもしれない。私たちは何か良い結果をもたらす何かを探し求めるというタブーを終わらせなければならない。もし何か良いものを手にいれなければ、それは一層悪くなるだろう」 

 

私たちはよりよい社会を求める探求を続けなければならず、さもなくば社会は悪化の一途をたどるでしょう。

終わりに

現代の労働はクソです。私たちの求める労働は別にあるはずです。

 

あなたは人間が本質的に怠け者だと思いますか?

それとも、人間は社会にとって有用なことを成し遂げたいと思う存在でしょうか?

 

あなたに心の底から打ち込めることがあるなら、それに専心することがもっとも生産的で、社会にとって有益ではないでしょうか。

 

そしてそれを可能にするのがUBIです。UBIはクソ仕事を殺します。たしかにUBIは失業者――というか働かない人をたくさん生むでしょう。でも、それで社会は案外回るんじゃないでしょうか。

 

世の中の仕事の半分程度は、そもそも「必要のない仕事」かもしれませんから。

 

UBIについては今後も調べていきたいと思います。