齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

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アナーキズムと犯罪――殺人、レイプにどう対処するか

「私がいなくなれば、二度と雨が降らなくなるだろう」

人々を騙す悪いシャーマンが言いました。

 

国家が必要だとする人は、このシャーマンを信じることと似ています。

 

もしも国家による管理統制がなければ?

 

「万人に対する万人との闘争だ」

「人間にとって人間は狼である」

 

そういったことが信じられています。

 

国家が運営する学校に通い、国家の管理するマスメディアに洗脳されているのだから無理からぬことです。

  

ともあれ、アナーキスト社会でも殺人やレイプは起きる。これは事実です。では、どうやって殺人やレイプのような「犯罪」に対処するのか?

考えてみます。

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はじめに アナーキスト社会には犯罪がない

まずアナーキスト社会に犯罪は存在しません。

 

犯罪の定義は、国家の禁じること(法律)に反することです。

 

犯罪行為を行う、あるいは未遂や企図すると警察によって逮捕され、検察官によって起訴され、裁判官が手続きを行い、国家によって罰を受けます。

 

すべての犯罪は「国家に反逆すること」を意味します。だれもいない高速道路を時速200km/hで走ったり大麻を吸うこと、立ちションや物乞いが違法になります。だれも迷惑しないのに処罰されるのは国家に対する反逆だからです。

 

いずれにせよ、国家がなくなれば犯罪もなくなります。

ですが便宜上ここではレイプや殺人など、共同体や個人の自由や平等への脅威となる行為のことを「犯罪」と呼ぶことにします。

自由で平等な社会で犯罪は起きるか

アナーキスト社会では犯罪はごくわずかとなります。

 

犯罪のほとんどは「金と異性」に起因します。貧困層の犯罪率が高い一因はその両者が手に入りにくいからです。しかしアナーキスト社会では「金と異性」の問題は解消される。

経済的に平等な社会

アナーキスト社会では貧困と不平等が存在しません。

 

アナーキスト社会では地主、資本家、税務官がいません。働くための農地や施設、建物、工場は共有財となり、だれでも使えます。

 

ひとびとは基本的に働きたい分だけ働きますので、働いた分だけ豊かになります。搾取や徴税のない世界ですから、働いても貧しい人、働かずに豊かな人はいません。

 

高齢者や障害者のように働けない人が貧困に陥ることもありません。アナーキズムは相互扶助を原則としますから、強者が弱者を助ける社会です(現代社会は強者が弱者から奪う社会です)。

 

経済的不平等は殺人などの暴力犯罪を引き起こし、貧困は強盗などの犯罪を起こすとされます。アナーキスト社会では不平等はなく、貧困がないために犯罪は減ります。

性的欲求不満は解消される

アナーキスト社会は分配を基本とします。

 

この分配は食糧や住宅、介護や子育てのようなサービスだけでなく、セックスにもあてはまります。

 

アナーキスト社会では現代のような法的強制力をもつ結婚は廃絶されます。そして男女間の関係よりも、共同体的関係の方が重要となります。

 

したがって男性が女性を支配することも、その逆もありません。また貞節を守るような洗脳教育もなされないでしょう。

 

ほとんどの人が適度なセックスを望んでいます。望むものは与えられるべきです。この観点から、セックスは現代の視点からは非常にオープンに公正に分配されるでしょう。

 

いわば、だれもがセックスしたい人とセックスできるようになるでしょう。このような社会では痴情のもつれによる殺人、性的欲求不満によるレイプが起きるとは考えにくい。

 

上記は狩猟採集社会のセックスを研究した「Sex at Dawn」を参考にしていますが、ちょっと突飛かもしれません……。

アナーキスト社会は犯罪者をどう対処するか?

経済的に公正で、各々の自由が保証され、性的な抑圧もない社会で、レイプや殺人が起きるとは考えにくい。

 

しかし殺人やレイプは起きるでしょう。いつの時代にも異常者やバカが存在するからです。 

アナーキスト社会は犯罪に無力か?

 「アナーキスト社会は警察が存在しないために犯罪が起きても無力だ」と言われますがこれは明白な誤りです。仲間が殺されレイプされるのを指をくわえて見ているつもりでしょうか。

 

その手に包丁があるか農具があるか拳銃があるかわかりませんが、各々が集団で対処することができます。 

 

私が愛する自治手段は19世紀までのイギリスに存在した「ヒュー・アンド・クライ」です。

 

泥棒を見つけたら「泥棒だ!捕まえろー!」と叫びながら犯人を追いかけます。すると、それを聞いた人も仕事を止めて「泥棒だ!捕まえろ―!」と叫びながら追跡する。

 

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「ヒュー・アンド・クライ」に参加することは市民の責任だとされていたので、泥棒が一人発生すればたちまちお祭り騒ぎになります。肉屋は包丁を投げ捨て、子どもは遊ぶのをやめ、主婦は洗濯物を放り、叫びながら泥棒を追いかけます。

 

泥棒にとっては最大の悪夢です笑

イギリスはこのやり方で何百年も犯罪に対処していました。このように、自治的に治安を守ることは案外簡単なのです。

犯罪の常習犯について

犯罪者を捕まえました。彼をどうしたらいいでしょうか?

 

基本的にアナーキスト社会は自他の自由を最優先します。

更生できるようであればその機会を与えるでしょう。

 

しかし、世の中は善人ばかりではない。

 

私はしばしば性善説者と思われていますが違います。「基本的性善説」を支持しています。つまり、大多数の人々に良心は存在するが、それをまったくもたないサイコパスのような人も存在すると考えています。

 

ボブ・ブラックなどはサイコパスはごく少数なのでその影響は無視しうるとしていますが、私は反対の立場です。悪は伝播するからです。サイコパスの周囲の人々は、影響されて悪行を重ねるようになる。

 

サイコパスのように悪魔的な人々をどうすればいいでしょうか。アナーキスト社会は、警察や裁判所のなかった近代以前のすべての共同体がとった方法と同じ手段をとります。

犯罪者を追放する

第一に追放です。二度と来ないでね、来ても追い払うよ、です。

 

共同体からの追放は意外と抑止力があります。ジョージ・オーウェルは「追放は非常に恐ろしい刑なので人々は投獄されることを望んだ」というようなことを書いています。まあ家族や友人と二度と会うことができないのだから辛いでしょう。

 

アナーキスト社会は犯罪者に対して「共同体に入る自由と平等」を保証しないのか? と思われるかもしれません。

 

アナーキズムの基本理念である「自由な連帯free asociation」とは、だれもが自由に人や集団と結びつけることを意味しますが、相手が関係性を強制されてはいけない。すなわち、共同体が問題のある成員との関係を断ち切ることはアナーキスト社会で容認されます。

 

追放した悪人がよその共同体で悪さするかも? と思うかもしれません。しかし、共同体間である程度は情報共有されるでしょう(例えばインターネットで)。これこれの人物がこれこれの事情で追放された。そういった掲示によって、各々の共同体が彼を受け入れるかを判断します。

犯罪者を殺す

それでもしつこくやってきて狼藉を繰り返すならどうするか?

 

……殺してしまいましょう。アナーキスト社会は死刑を容認します。残酷だって? いや、当然なのです。彼はその行いによって殺されることを「選んだ」のですから。

 

狩猟採集社会や前国家的・反国家的な共同体のすべてで「死刑」は存在しました。それによって協調的な社会が維持されてきました。

 

あたりまえですがだれもが殺人に強い抵抗を持ちます。しかし、追放しても戻ってきて悪さをする最低の人間は、殺されてもしょうがないでしょう。

 

私たちはゲームのなかで魔王を倒すことや、桃太郎が鬼を征伐することを正義だと感じます。同じことがサイコパスの処刑にも当てはまります。

 

サイコパスを殺すべきかどうかは真剣に考えるべき課題です。実際のところ、その殺人は悪ではなく善であり、生産的な殺人と言えるでしょう。

監獄は「ダメ、絶対」

犯罪者を幽閉しないの? と考える人がいるかもしれません。

 

そちらの方が更生の機会を与えるし、労働させて賠償もできる、そして「何だか平和的で民主的じゃないか」と。

 

しかしアナーキストは監獄に断固反対します。監獄に反対しないアナーキストは偽物なので信用しないでください。

 

スタンフォード監獄実験を見ればわかるでしょうが、看守と囚人という関係は徹底したヒエラルキーです。ヒエラルキーは暴力、搾取、支配、奴隷化、管理を生みます。その関係がどうして監獄内に留まるでしょうか?

 

監獄はあらゆる成員を腐敗させる腐ったりんご箱であり、監獄がある限りアナーキスト社会は崩壊します。

国家は犯罪である

アナーキーは秩序であり、国家はカオスです。

 

犯罪とは国家に反逆することだ、と書きました。

 

国家の役割とはなんでしょうか。人々から奪った財産を維持管理することです。警察や裁判官、官僚の役割はこの奪った財産を奪われたままにするために存在します。

 

私有財産制とは、他者から奪ったものに対し「これは私のものだ、お前のものではない」という主張を合法化することです。法律の役割は経済的不平等を維持するために存在します。

 

金持ちによる種々の強盗は合法とされます。被害金額や被害者の数の多さからすると、官僚や企業幹部によるホワイト・カラー犯罪は一般の犯罪よりも社会に対してはるかに深刻な影響を与えることが多いです。しかし、それらの事件は大抵の場合うやむやになってしまいます。

 

例1:津波がくる地域を宅地開発して数千人を殺した官僚、企業幹部

例2:東電の元社長は警察の全力の保護によって無事生き延びました。

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警察の手厚い保護によって要塞と化す元東電社長の邸宅

  

国家の本質は搾取と抑圧です。

 

あらゆる国家に暴力団やマフィアのような地下組織が存在しますが、どのような国でも支配層と彼らの関係は非常に深いです(日本ほど表沙汰になりませんが)。だからこそ、警察の(表面的な)努力にかかわらず暴力団が永遠になくなることはない。

 

 

 九〇年代をとおしてヤクザにもっともカネを稼がせたのは、おそらく日本政府だっただろう。この一〇年間、政府はカネをばらまいてどうにか不況から抜け出そうと務めたが、そのための中心的方法だったのが膨大な公共事業計画。これは過去最大と言われ、九一年から二〇〇〇年にかけて政府は三兆五000億ドルというとてつもない金を費やした。
 もちろん公共事業は、ヤクザのお気に入り職種の一つだった。ある意見によれば、全公共事業のおよそ三〇~五〇%に暴力団への利益供与がからんでいると推定。通常こうした契約の一~五%がヤクザにピンはねされるのだから、この推定によれば少なくとも一〇五億ドル、ひょっとすると八七五億ドルもの大金を暴力団がかき集めたかもしれない。(ヤクザが消滅しない理由/デイビッド・E・カプラン、アレック・デュブロ)

 

国家は犯罪です。 

 

警察や裁判官、官僚は人民ではなく国家に奉仕します。ですので、存在しなくても困ることはありません。

まとめ 解決された問題とさらなる課題

  • アナーキスト社会では犯罪は非常に少なくなる。
  • 犯罪が起きても共同体で対処できる。
  • 犯罪者は追放か死刑。
  • そもそも、国家が大犯罪である。

警察や裁判官は不要です。

 

法的強制力がある現在でも、治安が維持されているのは警察による強制力ではありません。

 

人々は基本的に良心を持っています。

 

あなたはレイプをしたことがありますか? 人を殺したことがありますか? 日常的に暴力をふるい、他者を支配していますか? 

 

アナーキスト社会が可能なもっとも身近な根拠は「あなた」です。

 

 

今日の記事はコメントへの返信です。アナーキストは殺人にどう対処するか? と何回かメールやコメントを頂いていたのでした。返事が遅くなりましたが、上記を回答ということにします。

 

……さて、もちろんこれでアナーキスト社会が実現可能になるわけではありません。警察や裁判所がいらないことは簡単に説明できますが、実はもっと大きな問題があります。それは「軍隊」です。

 

この難問については、別の機会に説明したいと思います(かなり先になるでしょう)。

補遺:警察は犯罪を愛する

長い引用になりますが、私は以下のフーコーの発言がとても好きです。

犯罪無き社会を夢見たのが一八世紀の末。ところがそれも束の間、犯罪は有益な面が多すぎて、それの無い社会を夢見るほどばかげた危険な話はないということになった。犯罪者が無ければ警察はいらない。だって警察の存在、警察による取締りを民衆が容認するのは犯罪を恐れればこそでしょう? それをあなたはまるで天からの授かり物のように言う。警察というこんなにも歴史の浅い、こんなにも抑圧的な制度が存在する根拠はそこにしかないんです。我々には武器が持てないのに、そこに武器を持った制服姿の奴等がいて、身分証の提示を求めたり、玄関先をうろついたりしてもいいなんて、もし犯罪者が存在しなかったらいたい誰が認めるっていうんですか? それに、犯罪者がいかに多くていかに危険かを毎日のように書き立てる新聞記事がなかったらね。(フーコー・コレクション 4 権力・監禁)