齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

3.11――「社会的大災害」でも目の覚めない奴隷

どうぞ服従を続け、これまでそうして生きてきたように静かに死んでください…… あなたの主人より。

 

「ご主人様」から私たち奴隷への書簡を見つけました。

東日本大震災に関する手紙ですが、いつ書かれたかは不明です。

f:id:mikuriyan:20181203022126j:plain

公開書簡「あなたの主人より」

何千人もの人々が死亡し、行方不明となった。数百万人が避難した。これまで。市街のすべてが一掃された。まるで地震ではなく核爆弾かのように日本に衝撃を与えた。津波ではなく戦争が家屋を破壊したかのようである。

 

ええと、まあ、実はそうだったのだ。しかし君たちのうちいくらかがどう考えようと、衝撃を与え脅威となる敵は地球や海ではない。まあ、私たちが君たちに自然を実態的な、復讐をもたらす敵対的な存在だと教えたのだが。そんなことは私たちの多くの詐術のうちのひとつである。

 

数世紀に渡って続いているのは人類と自然環境の間の戦争ではない。私たちは君たち全員が秩序どおりに動くように物語をつくりあげたのだ。私たちが敵だ。私たちが戦争だ。

 

しかし、自然は私たちの主たる戦場である。私たちは産業活動によって気候を変動させることで洪水を引き起こした。私たちは川岸をコンクリートで埋めて海岸の樹木を伐採した。私たちは競争を出し抜き契約を勝ち取るために脆弱な素材で橋を築き崩落させた。私たちは危険であると知っている地域に家を建てることで村や街全体を水没させた。私たちは原子力発電所を建設し地球を汚染した。

 

ジャッカルやハゲワシの中でどこにでも利潤を見つけだすことができるよう私たちは育った。私たちは予防措置を放棄する。私たちの関心は新しいショッピングモール、高速道路、地下鉄路線、スポーツスタジアムを作ることにあるからだ。しかし、私たちは君たちなしにそれをこなすことはできない。君たちはこれらのことが何度も繰り返し起きることを可能にしてくれる。君たちの人生に関わる事柄を私たちに任せてくれることで。だから、君たちに感謝したい……。

 

しかし、もちろん、君たちのためにそうしているのだよ。私たちは君たちがもっと早く移動し、早く食べ、早く労働し、早く生活するために世界を荒廃させているのである。今日において、君たちが求める最大のものはスピードではないか? だから君が早く死ぬことにどうして不平を言えるだろうか? まあ、どうぞ不平不満を続けてほしい。私たちは傷つかない。君たちが受動的で服従的であるかぎりは。

 

しかし今日起きているのは何ら純粋な自然災害ではない。それらはすべて社会的災害である。そして君たちはそれさえも受け入れてしまうだろう。それはスピードと快適さの対価だからだ。

 

もし君たちが漏洩する害毒や予測不可能な地震や洪水によって崩壊する家屋の被害者となりたくなければ、またもし君たちが見知らぬウィルスによって死にたくなければ、君たちはバカのように座り続けることは辞めて、私たちが君たちに宣戦している戦争を認識し、本当の敵と戦うだろう。

 

つまり、私たちが君たちに与えて、君たちが疑問にさえ思わない(それは私たちにとってはありがたいが……)、人生の生き方、価値観、風習、文化、そして受動的な無関心と服従、言い換えればこの社会とすべての機構に対し。

 

しかし君たちが生活の他の可能性を想像したり、現在の現実に対して戦うそぶりを見せず、私たちの権力と利益を脅かすのではなく、私たちがつくりあげて君たちに課した存在から喜んで死ぬことを続けることを私たちは願っている。

 

よき経済と社会平和(つまり私たちが戦争に勝ち続けること)のために、どうぞ服従を続け、これまでそうして生きてきたように静かに死んでください……。

 

Thank you. あなたの主人より。

全文:NATURAL OR SOCIAL DISASTER? an open letter from your masters about recent events in Japan and other things - Vagabond Theorist

まとめ 相変わらず奴隷の日本人 

もちろん、書簡の内容は強烈な皮肉です。手紙を書いたのは「主人」ではありません。シュティルナー主義者(≒個人主義的無政府主義者)です。

 

おそらく、過酷な「社会的」災害に見舞われても奴隷的態度を続ける日本人に不快感を覚えた記述なのでしょう。日本人が読んで和訳するとは考えていないのでは。

 

内容を軽くまとめます。

  • 私たちは自然が敵だと教え込まれている。本当の敵である「主人」を認識しないように。
  • 「主人」は利益追求を最優先する。自然を破壊し、人々を危険な状況に置き災害をもたらす。
  • 今日では自然災害はほとんど存在せず、すべては社会災害である。
  • 「奴隷」はスピードを求めるが、その代償として早く死ぬ。
  • それでも「奴隷」は反抗しない。スピードと快適さが手放せないから。
  • 「奴隷」は「主人」の課す生き方や価値観、社会そのものを否定することで解放されうる。
  • しかし、「奴隷」が相変わらず奴隷的生き方を続けるのであれば、「主人」にとって喜ばしいことである。
  • これまで服従してきたように、どうぞ静かに死んでほしい。

というような内容でした。

 

自然災害に耐え忍ぶ美しい日本人」というプロパガンダに毒された人は、 

「ひどい!」

「苦難に堪えた日本人に何ということを!」

と思うかもしれません。

 

結局、それは「鬼畜米英の侵略に抵抗する勇敢な日本人」と同レベルの考え方です。日本の兵隊の死は尊い犠牲とみなされたが、国家に食い物にされただけでした。ほんとうの敵は自然や外国ではなく、国家あるいは資本家の支配層であり、そのことは第二次大戦も3.11も変わりがない。美談が語られるときには必ず欺瞞が存在します。

 

参考:政府は最大の殺害者である - 齟齬

 

喉元過ぎれば熱さを忘れる 

記述にあるように、そもそも津波がくるとわかっているところを宅地として開発し、さらに原発を建てたのは産官学の支配層です(もちろん、ある程度は「快適さやスピードを求める奴隷」の責任でもある)。

 

それでも私たちは国家の責任を問うことはなかった。産官学の関係者はほとんど不利益を被ることなく、今でも元気よくハゲワシやハイエナの本性で利益を貪りつづけている。

 

多少は反国家運動もありましたが、すぐさま変なメガネをかけた目立ちたがり屋の高齢左翼が集まってきた。そして反国家運動を乗っとって無能化しました。テッド・カジンスキーの言うとおりのことが起きた。

もし(右翼運動以外の)革命的であろうとする運動が生じた場合、左翼ははちみつに群がるハエのように駆けつけて、運動の元のメンバー以上に増え、乗っ取り、それを左翼運動に変貌させてしまう。 その後の運動は革命的目的には使い物にならなくなる。(「使えない」左翼という存在) 

 

大衆の多くはマスメディアの「がんばろう日本!」的な態度に流され、批判的思考を持つものは「風評被害」「不謹慎」と非国民扱いでした。

 

これらは「ご主人様」のシナリオ通りだったでしょう。

 

さて、「社会的大災害」から7年以上経った今はどうでしょうか? すべてがうやむやとなりました。だれも責任を取らず、何も状況は改善されませんでした。日本と日本人は何も変わらなかった。

 

残ったのは収拾のつかない原発、世界的な放射能汚染、不可住区域、税金と電気料金の値上げ、そして相変わらずすべてに目を閉ざし、ただ支配層の意のままに動く奴隷としての日本人でした。

  

「ご主人様」の願いは実現しているようです。  

参考 社会的災害としての津波被害

もっとも津波被害の多かった市街のひとつである陸前高田。海辺は20世紀前半までは一面が田んぼで、住宅は存在しなかった。

 

f:id:mikuriyan:20181203140115j:plain

1933年時点での陸前高田の土地利用状況。青い部分は津波が到来した地域、赤い部分は家屋の多くが倒壊した地域。津波のくる地域は一面田んぼであり、家屋は立っていなかった。(2011年3月11日津波被災地域の土地利用変遷(陸前高田市)

f:id:mikuriyan:20181203141436j:plain

f:id:mikuriyan:20181203141433j:plain

陸前高田市について | マルゴト陸前高田より。津波により住宅のほとんどが倒壊した。死者・行方不明者数は1807人、人口の8%近くが犠牲となった。 

f:id:mikuriyan:20181203003537j:plain

これは陸前高田ではないが、「此処(ここ)より下に家を建てるな」と記された石碑(岩手県宮古市)日経新聞より