齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

人はなぜ陰謀論を信じるか

アメリカ人のうち、1200万人が爬虫類人がアメリカを支配していると信じている。

 

ブッシュが同時多発テロを起こしたと考える人は1億3800万人で、人口の半数近く。

 

また1億1000万人が地球温暖化は嘘だと考えており、9000万人が地球外生命体の存在を信じ、6600万人がロズウェルに宇宙人がやってきたと信じています。

 

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……どうして人々はそうなるのか? 考えてみましょう。

 

陰謀論者とはだれか

Steven Caldwell Brown博士の記事「The Characteristics of the Conspiracist」によれば、陰謀論者は「特別でありたい」「ユニークでありたい」という感情をもっているようです。

 

「一般人は何も知らないけど、私は世界の真相を知っている」と考えることは自己不全感の解消や脆弱なアイデンティティを支えるのに有用です。

 

このメンタリティは「左翼」「ヴィーガン」「スピリチュアリスト」とよく一致します。 

 

また、彼によれば陰謀論者の特徴は以下です。

  • 知能が低い
  • 敵対心が強い
  • 強い不安感
  • 人好きしない人格
  • 皮肉屋
  • 危険な性的態度
  • 人種差別的傾向

かなり辛辣な書き方ですね……。

根拠となるデータはあるんでしょうが、少し違和感が。

陰謀論は現代の神話

Andrew Dobbsの「Conspiracy or Anarchy」によれば、現代では陰謀論は神話の代わりになっているようです。

 

現代社会の問題を説明するのに「それは神の思し召しなのだ」「それは魔術なのだ」という言説で納得できる人がいるでしょうか?

 

現代では「神」の代わりに「理性」が位置づけられています。しかし、理性に対する信奉は、核戦争や環境崩壊、国際テロなどの脅威に対して揺らぎつつある。

 

そういった状況においては、理性の代わりに「神話」がふたたびやってきます。

 

かつて童話や絵画、演劇などに刻み込まれてきた神話は、現代では同様にもっとも権威的で、信頼のおける「科学理論」に刻み込まれるようになります。 

 

なるほど、ケムトレイルや人工地震説、水道水のフッ化水素添加、エイズウィルス人工説はいくらか科学的であり「科学的神話」といえるでしょう。

陰謀論の問題点

陰謀論者は現実の諸問題を分析しています。まったく正当に。

 

彼らが問題とするところ――国家や権力者の機密や監視が増大し、富や権力がますます少数者のものになっていることは事実です。

 

しかし、陰謀論者は事実を正当に結びつける術をもっておらず、権力がいかに働いているかを知ることができていません。

政府はなぜ秘密を隠すか

すべての陰謀論は、「もしそこに隠すべきことがないのであれば政府はなぜ秘密を保持するのか?」という問いを前提としています。

 

エリア51にせよ、日航機墜落事故にせよ「やましいことがなければ国家は情報を開示するだろう」ということです。

 

アナーキズム的視点であれば説明は容易です。国家は隠したいから隠すのだ。それだけです。

 

全体主義国家を考えてみましょう。民衆のだれもが秘密を持つことが許されませんでした。しかし、国家の行動のすべては秘密でした。

 

全体主義が過去のものになったとされる「民主主義」の現代であっても、国家は秘密と監視を強めていきます。(例えば「秘密保護法」や「Nシステム」)

 

また、アメリカ政府は全世界の通話情報を収集していました。これはスノーデンのリークがなければいまだに闇の中だったでしょう。しかし、それは監視と秘密を強める、国家の自然な性格にすぎません。

 

国家は「私たちのため」にあるのではなく、「彼らのため」にあるのです。この視点に立たなければ陰謀論的思考から抜けだせない。

陰謀論は権力に奉仕する

陰謀論は「悪を容認する」ことに繋がります。

 

たとえば「ホロコーストはなかった、ユダヤ人の陰謀だった」と考えることは、ナチス・ドイツの戦争犯罪を完全に無視することになる。

 

その他の歴史的な汚点――「731部隊は、従軍慰安婦は、南京大虐殺は陰謀である」といった陰謀説は学問的な批判であることは稀であり、ほとんどが単なる責任逃れです。

 

陰謀論が私たちにとって「気持ちがいい」と感じるのは、過去の責任や、未来の責任を免じるはたらきがあるからです。

陰謀論は既存のシステムを擁護する

同様のことが現代の「レプタリアン」にも当てはまるのです。例えば、いまの国家や支配制度がどうして不平等で理不尽なものなのか? 私たちはなぜ搾取されて不幸に生活しているのか?

 

陰謀論者は「それはレプタリアンが、フリーメイソンが、ビルダーバーグ・クラブが悪いのだ」と信じます。(日本では「在日朝鮮人」が大人気です)

 

この視点は資本主義や国民国家の権力構造や、その本質的な、現実的な悪をマスクする。彼らは、結局はそういった既存のシステムに対しては素朴な信仰を抱いているのです。

 

陰謀論者は現実の諸問題から目をそむけるだけでなく、神話としての陰謀論を人々に説得し、広めることによって本当の問題解決から遠ざけるはたらきがあります。

 

彼らは実際のところ、「この世界を邪悪にしている勢力」に加担しています。

結論:陰謀論は「ジャンクな真理」

世界が不幸や悪で満たされているのはなぜか?

私たちのだれもがこのような問いを持ちます。

 

「まともな人」は「世界は結局のところ幸福であり、不幸は私個人の問題なのだ」と考えます。陰謀論者は「闇の勢力が世界を支配している」と考えます。

 

このいずれも誤りです。しかし、まともな人よりも陰謀論者の方が真理に近いといえます。事実、私たちのだれもが人生や生活がクソですから。

 

問題は、陰謀論者は「闇の勢力」を排除すればそれで平和な社会――幸せな資本主義や貨幣経済、消費者生活が可能だと考えているところにあります。

 

これは結局のところ「幸福な資本主義」というようなおとぎ話を信じることと変わりません。

 

「神」が生きていた時代は教会が権威をもっていました。現代ではマスメディアや学校が権威であり、「幸福な国家」「幸福な資本主義」といった神話を刷り込んでいきます。

 

キリスト者が無神論者となることと、民主主義や資本主義の洗脳を解くことは同じくらい難しいです

 

多くの目ざめた人にとって「幸福な資本主義」や「幸福な国民国家」は自己矛盾です。資本主義や科学技術や国民国家は、私たちに幸福をもたらすものではなくその反対――不幸の根源だからです。

 

結局、陰謀論とは既存のイデオロギーの枠組みのなかで受容できる、わかりやすい、快楽をもたらす「ジャンクな真理」といえます。