齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

狩猟採集民は幸福だった

私たちは狩猟採集民として生まれました。

 

100万年間、人類は狩猟採集民でした。農耕は一万年、産業社会は数百年。人類の長い歴史において、近現代はまばたきのような一瞬でしかない。

 

私たちの肉体や精神は、自然な世界――狩猟採集社会に生きるようつくられました。しかし私たちは学校・家庭・メディアを通じて、勤勉な賃金労働者となるよう育てられます。 

 

現代のさまざまな不幸は、「生物としての自己」と「社会的な自己」の間の齟齬に由来するのかもしれません。 

狩猟採集社会と現代の職場の違い

フランス人仏僧のMatthieu Ricard氏の、心理学者Mihaly Csíkszentmihályiとの対談を通じての記事から。

From hunter-gatherers to modern society and the work place : some thoughts from the respected psychologist Mihaly Csíkszentmihályi - Matthieu Ricard

 

今日、多くの人々は職場で出くわす問題を嘆いている。彼らの経験する苦しみの原因には、「することを自分でコントロールできない」「価値観の衝突」「フラストレーション」「自己喪失」「怒り」、そして「見えざる束縛」による苦しみが含まれている。これらの内的な摩擦は、職業的な燃えつきを導くこともある。

 

狩猟採集社会は自由だった

Csíkszentmihályiは、これらの問題が特に現代の労働環境に起因するようだと指摘する。

  

狩猟採集社会では、人々はほとんど、自らの行動をコントロールしていた。彼らはいつ、どれだけの時間を食料の狩猟や採集にあてるか、いつ休みいつ遊ぶか、などを決めることができた。そこには価値観の衝突はほとんどなかった。というのも、部族は、価値観がほぼ同一である限られた人々で構成されていたからである。

 

狩猟採集民は、幼い頃からどこでも生きていける技術を身につけます。土地に縛られる農耕民族と違い、コミュニティが気に入らなければいつでも離脱できましたし、部族は明らかに有害な成員がいれば追放することもできました(真夜中、成員が寝ている間に去ってしまう、など)。

 

狩猟採集民は、私たちが想像もつかないほど「自由」でした。サイコパスは追放され、気の合う仲間とだけ楽しくやっていました。   

 

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(Photo: Kiliii Yuyan)

狩猟採集社会に欲求不満はなかった

フラストレーションや自己喪失は、おそらく狩猟がうまくいかない人に起きるだろう。しかし、このことは大きな問題ではない。狩猟がとくにうまくない者は、矢の準備や、ほかの有用な仕事をしたため、他者からの軽蔑されたり、孤立することはなかった。

狩猟がうまい人は、自主的に狩りに出ることを辞退し、狩猟の下手な人に「華を持たせた」とする優しい世界の報告もあります。 

  

そこには嫉妬心も非常に僅かだった。狩猟採集社会はきわめて平等であり、シェアに基づいていたからである。彼らがすべてを分け与え、なにも余分なものを持たなかった理由のひとつは、次のキャンプ地に持っていく余計な重荷を持ちたくなかった、ということにある。

 

人類学者の今村薫センセーが言ってましたが、「富は重荷」なのです。

 

……怒りはほとんどコントロール下に置かれた。人々は武器を持っていたからである。怒ることは明らかに危険だった。

 

農耕文化、人々が武装していないところでは,致命的な衝突が少なくなり、自己管理の必要性が低くなった。反対に、階級的な社会ができあがり、少数しかトップになることができないため、大部分の人々にとって怒りとフラストレーションは普遍的なものとなった。

格差が不幸を生む

Ricard氏の記事を読んでいると、狩猟採集生活の方が農耕や産業社会よりも、はるかにまともに思えてきます。

 

幸福は、豊かさではなく、平等にあります。現代社会では、社会的不平等が増大すると以下の結果が生じるとされます。

 

平均寿命の低下。乳児死亡率の増大。殺人の増加。不安障害の増加。精神疾患の増加。ドラッグ・アルコール依存の増加。肥満の増加。 

 

これらは貧困層にだけ起きるのではなく、富裕層にも生じます。 格差は不自然であり、不健全であるばかりか、人々を殺しさえするのです。 

縄文=狩猟採集民、弥生=農耕民 

日本における狩猟採集民は縄文人でした。彼らは世界にも例のないほど殺人や暴行の痕跡が少ない民族として有名です。

  

紀元前300年頃から、農耕民族である弥生人が台頭していきました。そこで「文明」が生まれ、「国家」が生まれ、戦争や殺人、奴隷制、税金、搾取、階級や不安といった社会的な毒が生まれました。

 

歴史が下るにつれ、狩猟採集民は殺され、追いやられました。現代の日本では、狩猟採集社会(たとえばアイヌ民族の社会)は消滅しました。

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現代日本に生きることがクソであることは自明の事実です。

 

私たちは、実は悪夢のような時代に生きているのかもしれません。