齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

支配とヒエラルキーの起源

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階層(ヒエラルキー)はいたるところに存在します。ヒエラルキーとは身分制度であり、強者による弱者への支配です。支配とは、搾取です。不平等であり、強制であり、暴力です。

 

いじめ、虐待、貧困、レイプ、DV、パワハラ・セクハラ、過労死、鬱病、差別。

 

これらの「現代的」とされる問題は、すべてヒエラルキーの本質である支配―被支配関係によって説明できます。あらゆる不幸の根源は階層構造にある、とも言えるのです。


さて、そんなサイテーの階級システムですが、なぜそんなものが生まれたのでしょうか? 人間が同じ人間を支配するなどという珍妙なことをはじめたのは、いったい歴史におけるどの段階だったのか。

 

ヒエラルキーの起源

Live Scienceの「ヒエラルキーの起源」から引用します。

Origins of Hierarchy: How Egyptian Pharaohs Rose to Power

古代エジプトの支配者は、栄光の豊かさを誇り、自らを黄金や香水で飾り、墓に財宝を持ち込んだ。

 

しかしなぜそのように階層的な、圧倒的なシステムが平等な狩猟採集社会から生まれたのか?

 

その理由は部分的には技術的な、部分的には地理的なものである。つまり、農耕が勃興し、砂漠が全面に広がっていた世界において、ファラオの支配の元から抜け出すことは、あまりに高くついたということである。

 

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Aerial view of Pyramids in Egypt | Joamos

 

「そこにはどこにも逃げ場がなかったのだ」とスイスのローザンヌ大学で、生態学と進化論のポスドク研究者であるサイモン・パワーズ(Simon Powers)は述べる。

 

古代エジプトはまさに平等から階層へ移行した社会の例である。新石器時代において――それは約1万年前にはじまった――農耕は食物の獲得手段として、狩猟採集に置き換わりはじめた。同時に、平等社会から階級が分裂し、明確なリーダーが誕生した。多くの場合、それらのリーダーは絶対権力を持った。

 

多くの研究者は、人々に食料や資源を貯え、その力によって他者を従わせることを農耕が可能にしたというように理論化している。しかし、リーダーが存在しないところから、なぜリーダーが生まれたかを実証的に説明した者は一人もいない。もし狩猟採集社会のすべてが平等だったとしたら、なぜ彼らは一人の人間に支配させることを許したのか?

……

Powersは、自発的なリーダーシップが生まれることをコンピューターシミュレーションによって描きだした。リーダーが人々に食物を与えると、彼らは従うようになった。(かなり意訳)

……

リーダーシップはふたつの要因によって独裁者に変わった。第一は人口密度と居住区域の拡大である――これは農耕社会に自然なことであった。

 

「基本的に、個人がリーダーに従わなくなることは難しくなる」とPowersは語る。「人口密度が高まるにつれて、利用可能な土地が少なくなるからだ」

 

このことが第二の要因へと導く。フィードバック・ループだ。リーダーシップの恩恵によって、服従者はより多くの資源を得ることができ、それによって多くの子どもを持つ。子どもたちによって人口規模と密度を拡大し、自由な土地を減らし、離脱への機会を失わせる。


しかし、もし集団からの離脱のコストが低ければ――たぶん友好的な都市が近くにあったり、ちょっとした旅で自由に使える土地が存在するならば――独裁制はありえない。人々はリーダーが強力になりすぎたら、単純に逃げてしまう。もしコストが高い場合――エジプトの砂漠のような土地的な障壁、あるいは灌漑のように、実用的なものがあるなど――人々はリーダーの権力濫用に耐えなければならなかった。

 

「狩猟採集社会では、もし個人が独裁者のようにふるまえば、人々は夜中に起きだして、彼を置いて去ってしまっただろう。しかし農耕社会においては、それは可能ではない」Powersは述べる。

 

調査では、石器時代の階層社会の多様性が明らかになっている。たとえば、ペルーは肥沃な農耕土を持つ多くの初期国家をもっていた。それらの谷から離れるためには、人々は山を越えなければならなかった――危険で困難だった、とPowersは言う。

 

対象的に、アマゾン流域では農耕への移行が済んでいても平等でありつづけた。これは他の土地を見つけ、移動することが簡単だからという可能性がある。

 

こんにちにおいても石器時代の秩序は残っている。民主的な社会においては、Powersは、リーダーを追い出すことが簡単であり、ほとんど独裁者となることができないとする。非民主的な社会では、リーダーは追い出される恐れがなく、独裁的なふるまいをすることができる。

結論

支配が生まれたのは、農耕によって、財産を蓄えられるようになったときである。その財産によって、他者を従えさせる「権力」を持つようになった。リーダーは、はじめは「ご飯を食べさせてくれる人」だった。ご飯を食べさせてくれるから、人々はリーダーの意志にしたがった。

 

しかし、農耕社会による人口増大によって、利用可能な土地が狭まっていった。「嫌なリーダーから逃げる」ことが住民たちにとって難しくなった。リーダーはしだいに、徴税などを強制するようになった。富を収奪し「ご飯を食べさせてもらう」独裁者となった。暴政から逃げられない住民たちは、奴隷的境遇に耐えるしかなかった。

 

まあこんな感じのストーリーでしょうか。なんというか壮大ですが、やはり農耕の誕生が諸悪の根源というところですね。

狩猟採集民「農耕社会はブラックなので拒絶する」 - 齟齬

 

なぜ農耕が誕生したのか? については、軽く調べてみました。→(酒と文明――狩猟採集民の定住の理由 - 齟齬

 

それにしても、初期国家とブラック企業はよく似ていますね。上記の示唆することは、「雇用流動性」がブラック企業を壊滅させる、ということです。逃げたいことから逃げられる社会であれば、自然と抑圧的な支配はなくなるのです。

 

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現代のピラミッド。 右はそのピラミッドが、いかにはたらくか。(SHAPE Journalより)

 

 

読んでいて、狩猟採集社会に生まれたかったなあ、と思いました。

 

「狩猟採集社会では、もしひとりが独裁者のようにふるまえば、人々は夜中に起きだして、彼を置いて去ってしまっただろう。」

 

かっこいい。サイコパスは追放されるのです(もしもサイコパスを社会から「追放」したら - 齟齬)。

 

私もいじわるな上司は置いて、気の合う同僚だけで夜逃げしたいです……。あと、無能な政治家や役立たずの王様も置き去りにしたいです。(昔の人はクソ国家から好き勝手逃げだしていた - 齟齬

 

ファラオはナイル川に放り込んで溺死させようby ソロー

たまたま今日は「森の生活」を読んでいたのですが、エジプト王に関してH. D. ソローの辛辣な描写があったので紹介します。いやー、ほんとにソローは大好きです。

 

 

ピラミッドについては、おどろくべき点などまったくない。ある間抜けな野心家の墓を築くために、あれほど多くの人間が一生を棒に振るほど堕落していた、という事実のほうがはるかに大きなおどろきである。ああいう手合いはナイル川に放り込んで溺死させ、死骸をイヌにでも食わせてやったほうが、賢明な男らしいやり方だったろう。