IQが違うと話が合わない――のウソ。
この俗説、もっともらしく聞こえるので広まっています。
参考↓
- 「IQが20離れていると会話が成立せず、近いほど笑いが絶えない会話になる」という話に様々な意見が集まる 「めちゃくちゃ腑に落ちた」「全然そんなことない」 - Togetter
- IQが20違うと会話は成立しないという俗説について - いろはに要検討
- 【バカにはわからない?】 IQが20違うと話題が合わない!! 高IQな人のあるあるをまとめてみた。 - NAVER まとめ
英語圏では「IQ30の壁」なんてことが言われていますが、日本ではなぜか「IQが20違うと~」となっています。
30の壁はまだ理解できますが、20は無理がありますね。IQ90と110の組み合わせなんていたるところに存在すると思うのですが、その都度コミュニケーション障害が起きているのでしょうか?
俺IQ120だから庶民とは話が合わないわ~、天才だわ~、と言いたい系でしょうか?
こういう俗説って日本では永遠に正されないのですが、英語圏では科学者がバシッと否定してくれるので頼りになります。
The Myth of The 30 IQ Point "Communication Range" - Neuroskeptic
Neuroskepticの記事では、以下のQuorianの文章を引用しています。
コミュニケーション・レンジという概念はLeta Hollingworthによって確立された。IQのプラス・マイナス2x標準偏差の差異(約30ポイント)を扱ったものである。この差異は、意思疎通(コミュニケーション、議論、会話、社会関係化)の実現を不可能にする。もし二人のIQの差が30を超えると、コミュニケーションは破綻する。IQが高ければ理解できないナードに見えるし、IQが低ければひどい愚か者に見える――そして彼らは何ら共通点が見つけられない。
これをNueroskepticは批判的に考察します。
実際には「IQ30の壁」 を提唱したのはIQ研究のパイオニア、Hollingworth (1886~1939)ではないらしい。Grady M. Towersの1987に書いた記事、 ‘The Outsiders'が原型のようです。
そこで、TowerはHollingworthの記述を引用しています。
観察によれば、リーダーの知性とその被指導者の間には直接的な関係が見て取れる。同年齢の子供たちのなかでリーダーとなるためには、より賢い必要があるが、被指導者と離れ過ぎてはいけない……一般的に言って、リーダーシップのパターンはIQが30違うと、堅固ではない――または、破綻する。
この文章に対し、Towersは以下のように書いています。
このことが示唆するのは、異なる知的レベルにおける本当のコミュニケーションは不可能ということである。
ここにはひどい飛躍があります。
- Hollingworthの研究は、リーダーシップの研究だった。
- 子供を対象とした研究だった。
- あくまで「観察」であり、科学的に結論付けたわけではなかった。
にもかかわらず、Towersは「IQの違いが30あればいかなるコミュニケーションも不可能だ」としています。これは無理筋ですね。
Towersはプロメテウス協会の会誌でこの記事を書いたみたいです。プロメテウス教会は、メンサより厳格な高IQ組織です。メンサは50人に1人の高IQなら入れますが、プロメテウス教会は3万人に1人しか入れません。
Towersは天才だったようですが、学者ではなく、55歳で警備員の仕事をしている最中に亡くなりました。
IQとコミュニケーションはあまり関係ないのでは
たぶん天才は、居酒屋でワイワイゲハゲハするのは苦手でしょうが、別に不可能ではないでしょう。俺って天才だからさ……とツンケンする奴は、天才ではなく単に「嫌な奴」です。
「話が通用しないIQが高い人」のイメージ。IQ200の設定。映画『ハンニバル』より
それにしても、ネット上では「俺はIQが高いけど~」という人がいても、「俺はIQが低いけど~」という人がほとんどいません。人口の半分はIQ100以下のはずだが、彼らはどこへ行ったのか?