齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

騒音に悩む人は実は天才だった

一級騒音マイスターの私であり、天井・壁ドンは日常茶飯事、早朝のトンカチカンカンDIYには110番通報、隣家の犬がうるさければ玉ねぎ食わせて毒殺保健所に通報、家の前が自動車の抜け道になっていれば市役所に通報(信号のタイミングが変わりました)など、あらゆる方法を駆使して騒音をしのいできました。

 

すべてが役所頼みなのではなく自分でも十全に対策してきました。はじめは「射撃用イヤーマフ+耳栓」で対処していました。しかしそれよりも「射撃用イヤーマフ+カナルイヤホン+ホワイトノイズ」の方が有効だと気づき、ついには「射撃用イヤーマフノイズキャンセリングイヤホン+ブラウニアンノイズ」によって完全なる無音を達成したという経緯があります(イヤーマフは滅多につけませんが)。

 

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射撃用イヤーマフノイズキャンセリングイヤホン+ブラウニアンノイズ=三種の神器

  

視界は眼を閉じれば遮断できる。嗅覚も同様だ。なぜ聴覚だけはこうなのか? と私は人体の構造欠陥を呪ってきました。

 

でも、最近の研究では聴覚過敏の人は天才の傾向がある、という結果が出たようでそう悪いことばかりではないことを知りました。

 

騒音に苦しみぬいた天才の方々 

Hate Noise? You Might Be A Genius | Phactualより翻訳。

古代ローマストア派セネカは、騒々しい浴場の上に住むことについて書いている。ローマは知者にやすらぎを与え、静かに考えるために、彼らの家の近くに店舗を置くことを禁じた。セネカは最初、自らのストイックな態度を誇示したが、ついに敗北を認め、彼の言う「静かな精神」を守るために引っ越した。

 

作家、フランツ・カフカは、知識人は精神をより深化させるために、平和で静かな環境が必要だと考えていた。「私は書くために孤独が必要だ。隠者のようにでなく――それでは十分ではない――死人のように」

 

マルセル・プルーストは、「過去思い出したこと」をベッドに書き連ねた。騒がしい路地や上階の歯医者、音楽家の騒音を防ぐために、コルク生地の壁の寝室の中で耳栓をした。彼の仲間の哲学者、アンリ・ベルグソンに会ったとき、彼は騒音に悩まされて仕事ができないと打ち明けた。プルーストは彼に、自分好みの耳栓ブランド「Quies」(引用者注:現存するフランスの耳栓ブランド、1921年創業)を勧めた。

 

1760年代、哲学者のイマヌエル・カントは、形而上学的な思索が川のボートや路上を走る貨車の騒音で絶えず中断されたと書いている。彼はセネカと同じように引っ越したが、不幸にも彼の隣人は騒々しい雄鶏を飼っていた。彼はいくらでも払うから買いとりたいと申し出たが拒否されてしまった――彼は考える場所を得るために再度引っ越さなければならなかった。

 

哲学者のトマス・カーライルはカントと同様、彼の言う隣人の「悪魔の鳥」に悩まされただけでなく、オルガン弾きと隣人のピアノに悩まされ、防音室を造ろうとした。彼は叫ぶ。「静けさ、静けさ。千の感覚の中で、私たちの生活を守るものとして、静けさの価値を必要な不可欠なものと私は宣言する」

 

リヒャルト・ワーグナーは作曲において静けさを求めた。「名匠には静けさが必要だ。静謐さと静寂さは彼にもっとも欠かせないものである」。モーツァルトもこういったことで有名だ。「音楽は音符の中にあるのではなく、そのあいだの静寂にある。」

 

騒音はショーペンハウアーを生涯悩ませ続けた。彼が格別憎んだのは馬車に乗った男たちであり、鞭を打つ者を罰するべきだと提案した。彼は優れた知性は騒音に敏感であるという考えに落ちついた。彼は言う。「私はある家の中庭で犬が何時間も吠え続けるままにされているのを気づくと、住民がどのような人間と考えるべきかを知ることができる」

ああ、わかるよショーペンハウアー――吠える犬を放置するやつはだめだ。叫ぶ子どもを放置する親もダメだ。 さすがニーチェがお父さん扱いした哲学者だけある。

 

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プルーストの部屋。壁にコルクが貼られています。窓に瓶を敷き詰めていたのはだれだったかな?

 

騒音と天才の関係性

同記事によれば、ノースウェスタン大学の2015年研究で「創造性の高い人は騒音に悩まされる傾向がある」ことがわかったらしいです。最新の研究ですが、詳細は触れません。「そりゃそうでしょ」という感じなので。

 

ショーペンハウアーではないですが、音に無頓着な人、うるさい人に知性がないというのは当たり前。無神経な創造家というのはほとんど考えられません。天才や創造家は「有神経」つまり鋭敏な神経の持ち主です(往々にして精神病レベルで)。

 

天才に聴覚過敏が多いことは当たり前ですよね。他の人が気づかないこと・気にもとめないことに気がつくのが天才なんだから。

 

「聴覚過敏で悩んでます」という人は、自分がいくらかgiftedであることを自覚すると気が楽になると思います。というかそれくらいの埋め合わせがないとやってられないですね……この辛さは。

 

静けさと文化レベル

考えてみればわかるのですが、知的な人が集まるところや文化レベルが高いところは静かなんです。

 

美術館や博物館は静か。図書館は静か。クラシックコンサートは静か。神聖とされる場所、神社や寺も静かでしょう。仙人は喧騒を離れたところで静かに暮らしてる。あとは文化レベルの高い人が住むような高級マンションや高級住宅街や高級バーや高級レストランも静か。

 

逆にうるさいところはどこかといえば、渋谷のスクランブル交差点、ママ友の会話、テレビのバラエティ番組。ブックオフやスーパー。大学生の来る安居酒屋。Fランク大の講義室。家賃3万円の木造アパート。

 

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お金がない私は野宿で静寂をゲットしてました。でも、ここも漁船のエンジン音がうるさかったんですよね~……

 

聴覚過敏の人は、無理矢理他人に合わせて「陽気なふり」をするよりも、静かなところに逃げて、孤独に隠遁した方が得るものが多いかもしれません。