齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

ニーチェとアナーキズム

私は自分の所有する家に住み、他の誰のまねもしてこなかった。そして、自分で自分を笑いものにできない人物を、どんな偉人であろうと、笑いものにした。(ニーチェ「華やぐ知恵」)

 

どんな仕方であろうと、相手の権力に従う人の中に、ニーチェは弱さを感じとる。……人格を円満に発達させているなら、その行いをどんな道徳法則にも従わせようとはしない。もっぱら自分自身の衝動に従って生きようとする。……強い人は自分の思考と行動のやり方を自分自身の本質によって決める。(シュタイナー「ニーチェ みずからの時代と戦う者」)

 

 

再三になりますが、私は世界を三つの人種によって構築されていると考えています。

  • 支配者:権威を持つ
  • 被支配者:権威を持たない
  • 無縁者:権威的諸関係から外れる

図示するとこうです。

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一般的に社会モデルはピラミッド構造で考えられるのですが、ピンクの境界的な存在がかなり存在するのではないかと思います。これ、マルクス主義では完全に無視されてきたところです。

 

かつては国家と無縁なところで好き勝手に生きてきた彼らですが、国民国家は、こういった辺縁の人々を吸収し、学校や刑務所、医療によって「国民化」しようとしますので、異端者となります。

 

国家の理想(日本の場合)はすべてが三角形構造のなかに含まれること……つまり、戦前の日本のように、国民のほぼ全員を兵役や労役に駆り出すことができ、搾取し使役できる状態ですから、基本的に学生・労働者・主婦といった前生産者・生産者・再生産者以外は非国民扱いされます。いまだに戦時中を理想とする政治家がいるのは、こういった事情によります。

 

しかし、ニーチェが「もっとも強い」と考えたのは、支配も被支配もされない無縁者でした。支配者――たとえば、六本木ヒルズに済む年収10億円の青年実業家――は「弱い」のであって、かえってH.D.ソローのように小屋を立てて暮らしている人の方が「強い」という考え方です。

 

奴隷が主人の意志に従うのも、宗教家が神の啓示に従うのも、哲学者が理性の言葉に従うのも、事情は変わらない。皆、言いなりになっているのだから。何が命じるのか、はどうでもいい。決定的なのは、命じられていることであり、人間が自分で自分の行為に方向づけを与えてはおらず、自分に方向づけを与えてくれる権力があると考えていることである。
真に自由な強い人は、真理を受けとろうとはしない。真理を創造しようとする。許された状態に身を置こうとはしないし、言いなりにもならない。(シュタイナー・同)

 

ニーチェは、プラトンの時代からの「真理への意志」を否定しました。キリスト教的な「絶対神」も捨象しました。それは「権力への意志」なのだとしました。

 

つまり、無縁者(アナーキストと表現しますが)って強いんですよね。だれかを支配しなくても、だれかに支配されなくても生きていける。神も主人もいらない。それがアナーキストです。奴隷に依存する主人は奴隷がいなくなった生活を死ぬほど恐れていますが、アナーキストはどうとでも生きていけます。タフで柔軟で、生命力に溢れている、人生を楽しめるのがアナーキストです。

 

アナーキスト界隈では、ニーチェアナーキズムに影響を受けたのではないか? というのはポピュラーな議論です。つまり、エゴイスト・アナーキズムの始祖・マックス・シュティルナーニーチェは読んだのではないか、という指摘があるのですが、これは実証的には否定されているようです。

 

しかし、ニーチェアナーキズムは無関係か、といえばそうではないでしょう。「アナーキズム」という言葉は資本主義が台頭するとともに生まれた言葉で、古くは老子やゼノンもアナーキストだったと言われています。というか、私の好む思想家(例えばC. ライト・ミルズ、マズローなど)はだいたい広義のアナーキストのような気がします。ニーチェアナーキズムの影響を受けてませんが、ニーチェの思想を一種のアナーキズムと考えても良いような気がします。

 

ニートやヒキコモリは「悲惨な人生」として描かれていますが、本来彼らこそもっとも強い力と、人生を楽しむ権利を持っていると考えることができるかもしれません。

 

日本のアナーキストの代表は撲殺された大杉栄や冤罪で死刑となった幸徳秋水なのですが、この過剰反応からわかるとおり、まさに日本を変えうるのはアナーキストであり、今後増え続けていくのではないか、と私は考えています。

 

今日はあまりに疲れているので、短いですが、ここまで。

引っ越しって、尋常ではないお金と体力が持っていかれる気がします……が、なんとか新生活を軌道に乗せられそうな感じです。

 

(という記事を昨日書いたのですが、投稿ボタンを押す一歩手前で寝落ちしてしまいました。日時をごまかして投稿します……)