齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

動物の持つ倫理感

アリストテレスやデカルトはこういいました。

動物には感情がない。動物は単なる機械だ。

 

が、近年の研究では、動物たちも倫理観や寛容さ、正義感を持つことが示されているようです。

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ボノボの「カンジ」(引用元

 

つまり動物も、私たち人間と同じように精神や感情をもちあわせている。

人間は「特別な存在」ではないということです。

 

人間は特別な存在ではない

BBCの記事より引用します。

BBC - Earth - Humans are nowhere near as special as we like to think

 

動物が感情を持っているとすることは、タブーだったとアトランタのエモリー大学のフランス・ドゥ・ヴァール氏は述べる。

 

1960年代前半、霊長類学者のJane Goodallによる、野生のチンパンジーの研究から、ゆっくりとだが、タブーは変わっていった。彼女の任務は、私たちの人類の先祖のことを理解するために、チンパンジーたちを観察することにあった。

 

アフリカでの調査を初めたとき、彼女は驚くほど人間と似た行動を観察した。彼女の初期の研究で、彼女はチンパンジーたちを「それ」ではなく、「彼」「彼女」と呼んだ。それまで学界では聞いたこともないことだったが、彼女はチンパンジーに名前まで与え、それぞれの個性について説明した。

 

彼女はまた、チンパンジーが肉を食べることを発見した。彼らは当初の想定と異なり、菜食主義ではなかった。そして彼らは、道具を用いていた。彼女はチンパンジーが、魚を釣るためにシロアリをつけた小枝を使っているのを観察した。

 

そのことだけでも、画期的な発見であった。それまで、道具を用いることが人間が唯一持つ能力だとされてきたのである。

 

彼女のプロジェクトリーダー、古生物学者のLouis Leakeyはそのとき言った。「私たちは「道具」を再定義し、「人類」を再定義しなければなるまい。それか、チンパンジーを人間と認めるか」

 

……ドゥ・ヴァールはダーウィンが100年以上前に書いたように、若いチンパンジーをくすぐると子どもたちと同じような笑顔を返すことを発見した。2015年5月に公表された研究では、人間とチンパンジーの笑顔は、同じ筋肉によって引き起こされることを明らかにしている。

 

私たちの信じられないほど多様な表情はユニークかもしれないが、チンパンジーの顔を長く見続ければ、彼らの笑顔や笑いのもつ同じくらい複雑なレパートリーを見て取ることができるだろう。

 

私たちにはわからないだけで、チンパンジーにも豊かなコミュニケーションがあるのかもしれません。

チンパンジーと道徳性

道徳性は、公平性、利他主義、共感を含むと言えるだろう。何世紀にも渡って、私たちの道徳規範は人類観の重要な要素だった。私たちは長い間、道徳的な理論と共感能力が、私たちを獣から遠ざけるのだと信じていた。

私たちは子どもたちが早い時期から、公平に対する強い感覚を持つことを知っている。たとえば、彼らは友人たちに物を分け与える。たとえそれが明らかに負担になるとしてもだ。子どもたちはまた、生まれつき利他的であるようにも思われる。彼らは14ヶ月の幼い時期から、そう促されなくても、落ちたものを拾い上げるのを助ける。

 

人間の本性に善性があることは、以前書いたことと合致しています→人間の本性は善である――基本的に - 齟齬

 

しかし他の動物たちも公平性の生まれつきの感覚をもっている。

2003年、ドゥ・ヴァールは猿たちが賃金不平等にいかに反応するかを調べた研究を発表した。

二匹の猿に同じ仕事をさせ、双者がよろこんで報酬のきゅうりを受けとった。しかし一方がランダムによりおいしそうなブドウを与えられると、もう片方は不機嫌になり、きゅうりを拒絶した。チンパンジーも同様に行動した。

 

チンパンジーは同一賃金同一労働を主張する。なんで正社員はブドウ食ってるのに、うちら派遣はきゅうりなの? 許せねー、というわけです。おもしろいです。

 

しかし、チンパンジーがもし人間の実験者の代わりに報酬を制御したらどうなるだろうか?

 

私たちは彼らが食べ物のことに関しては、自己中心的になることを知っている。彼らはライバルから、食べ物を盗んだり隠したりするからだ。

 

しかし、2013年の研究では、チンパンジーが協力の価値をも知っていることが明らかになった。彼らは周囲に食べ物の存在が知られていなくても、それを分け与えた。研究は、チンパンジーは人間と同様に、報酬を平等に分配することが明らかにした。ある課題では、チンパンジーは人間がお金をシェアするのと同様に、バナナをシェアした。

 

「実験室」ならともかく、資本主義社会では、人間はお金をシェアしませんけどね……。

 

本当は優しいチンパンジー

チンパンジーはまた、本能的に親切でもあるようだ。若い児童のように、チンパンジーは人間が手の届かないところにある物をとるのを助けてくれる。

 

彼らはまた、互いに助け合う。チンパンジーは自分には何ら利益がない場合でも、仲間が食べ物を得るために、ドアの鍵をあける。野生のチンパンジーの研究者たちは、チンパンジーたちが障害のあるグループ成員を助け、無関係の孤児を受け入れ、友人が密猟者の罠から脱出するのを手伝うことを目撃した。

 

この利他主義の感覚は、動物界に深く根ざしているに違いない。ラットもまた、自らが濡れるとしても、味方が水に濡れそうになるのを助ける。

 

チンパンジーが利己的で卑しいという昔からあった見解は、もはや受け入れられない、とドゥ・ヴァールは言う。「人々は道徳は神から、宗教からやってくると言う」。彼が言うには、しかし私たちはあきらかに他の動物たちから、道徳の起源を見ることができる。

 

もちろん、善には悪がつきものだ。チンパンジーがただ単に寛容で、道徳的な生物と見ること誤解である。私たちと同じように、彼らはダークサイドを持っている。喧嘩や、殺害、子殺しのような例が多くある。

 

これはもちろんそうですね。

 

ただ、個人的にはチンパンジーは悪(そしてボノボは善!)、という認識があったので、非常に蒙を啓かれた感じであります。 

人間は特別ではない

道具を使うから、

笑顔を持つから、

道徳心をもつから、

「人間は特別な生き物だ」とされてきました。

 

これらは間違いだったんですね。

 

あえて人間社会のユニークな点をあげるとすれば、共感能力を失っていることにあるのではないでしょうか。私たちの社会は、他者をいじめたり、奪ったり、傷つけたり、殺すことが当たり前になっています。

 

これは、先の文章を読むと、不自然で不可解な事態に思えます。

 

結局、私たちは平和に、のんびりと、他者をいたわりあう、優しい世界に生きていくよう誕生した、にもかかわらず、金持ちのために働き、金持ちの商品を買い、金持ちのための戦争で死ぬような、資本主義社会のマシーンへと改造されている――というのがほんとうではないでしょうか。

 

……陰謀論っぽい?  

フランス・ドゥ・ヴァールの引用

もともと、この記事を書いたきっかけは別冊ナショナル・ジオグラフィックの「心――知性 感情 言葉 社会」で、ドゥ・ヴァール氏が紹介されていたからでした。以下の文章を読んで、いい研究をしてるなー、と思ったのです。

 

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で、調べたら割とタイトルだけ知っている本の著者でした。けっこう和訳されてますね。

 

 

↑このタイトル、秀逸です。

 

 

 

そんなドゥ・ヴァール氏ですが、おもしろい発言があったのでWikiquoteから引用します。

私たちがチンパンジーたちの目を深く、まっすぐ見ると、知的な、自己確信的な人格が私たちを見つめ返す。もし彼らが動物なら、私たちは何であるべきなのか?

 

私はときどき、もし私たちがボノボを最初に知って、次にチンパンジーを知る、あるいは何もしらないとしたら、何が起きたかを想像してみる。人間の進化の議論は、暴力や戦争、男性支配ではなく、セクシャリティ、共感、ケアや協力であっただろう。私たちのもつ知的風景は、なんと異なるものであっただろうか!
Our Inner Ape: A Leading Primatologist Explains Why We Are Who We Are

 

だから、自然は命がけの闘争によって成り立っており、私たちはそのようにすべきだという主張する人のことは信用しないで欲しい。多くの動物達は他者を抹殺したり独占することによってではなく、協力と共有によって生き残っている。このことは、狼やシャチのような狩人にもっともよく当てはまるが、私たちのもっとも近縁である霊長類にもあてはまる。

The Age of Empathy: Nature's Lessons for a Kinder Society

 

人間は人間にとって狼であると言われる。私はこのことは、非常に狼に失礼であると思う。
Primates and Philosophers: How Morality Evolved

 

私たちが規範化された社会を見るとき、そこにはしばしば社会的ヒエラルキーが存在する。
このヒエラルキーは、だれが食べることができて、だれが最初に交配するかを決定するものだが、究極的には暴力に由来している。
The Bonobo and the Atheist: In Search of Humanism Among the Primates

 

男性が生まれつきポリガミー(複婚)で、女性が生まれつきモノガミー(単婚)であるという主張は、スイスチーズ並に穴だらけだ。
Our Inner Ape: A Leading Primatologist Explains Why We Are Who We Are

 

興味深い学者なので、今後もフォローしていきたいです。