齟齬

社会とマイノリティの「齟齬」を描く御厨鉄のブログです。

だれが戦争を望むのか

「人はなぜ戦争をするのか?」という問いをよく聞きます。

 

しかしこの一文はどうでしょうか。まるで私たちが戦争をしたがっているかのようです。

  

確かに、私たちの先祖は派手にドンパチしました。たくさんが殺し、たくさんが死にました。その結果だけを見れば、私たちが戦争を求めているように見えるかもしれません。

 

しかし、人間が生得的に、本能的に、戦争をしたがる傾向があるのでしょうか?

 

戦争は「死ぬ」こと 

一人の兵士にとって、戦争は「死」に直結します。

 

戦果を上げて100人殺そうが、どれだけ階級をあげようが、一発の銃弾で人生はオシマイ。兵士にとって、戦場は戦いの場というよりも「墓場」に近い。 

 

f:id:mikuriyan:20180515221342j:plain

南北戦争戦没者の遺骨。

www.youtube.com

PTSDアクションマン、麻痺アクションマン、死体アクションマン――戦争美化のアクション人形、「GIジョー」のオマージュ。

 

さて、自ら進んで死ぬことが「人間の本性」でしょうか? そんなわけがないのであって、生きることが人間の本能です。ご飯を食べるのは生きるためであり、睡眠を取るのも生きるためです。戦場へ行きたくないのも自然の本能です。

 

ではなぜ人が死地に赴いたか。それはそうするよう「強制」されたからです。「徴兵」がその第一の例です。また、メディアや学校教育を通じた詐欺や洗脳、厳しい軍律や市民の相互監視も強制力としてはたらきました。

 

もし戦争が人間の本性であるならば、これらの装置は不要なはずです。

戦争の主体はだれか

では、だれが何のために戦争を始めるのか?

 

戦争を始めるのは、絶対に戦争に赴くことのない人々――つまり、支配階級です。

 

「支配階級はつねに戦争を宣言する。下位階級はつねに戦場で戦う。支配階級は得られたものをすべて獲得し、失うものはない。一方で下位階級は何も得ることなく,すべてを失う――とくに、その生命を」Eugene Victor Debs

 

彼らは被支配者に戦争を押しつけますが、その利益はすべてもっていきます。   

「Rich Man's War, Poor Man's Fight」(南北戦争時の言葉) 

 

「金持ちが戦争を起こし、貧乏人が死ぬ」サルトル

  

なぜ支配者は戦争をさせたがるのか

戦争が起きるのは、それが支配者にとっての利益になるからです。(そしてそのツケはすべて被支配者が払います)。

 

戦争は大部分の人にとって不幸ですが、一部の人々の莫大な利益になります。

 

  • 軍隊や関連省庁の予算が莫大に増え、ハッピーです。
  • 官僚たちも税収増加によって予算が増え、権益を増大できます。
  • 巨額の税金が投入される軍需産業や財閥は「爆益」となります。

 

天皇や優位な政党も、戦争を口実に支配を盤石にできます。たとえば1930年代の日本では、右翼(マフィア)を使って軍部や皇室に敵対する政治家への暗殺が横行していました。濱口 雄幸(内閣総理大臣)、井上 準之助(前大蔵大臣)、犬養毅(内閣総理大臣)、高橋是清(大蔵大臣、元内閣総理大臣)。一国の首相が当然のように暗殺されているのですが、「戦時中だから仕方がないよね」と水に流されます。市井の反戦思想家は、もちろん弾圧されますし、共産主義者やアナーキストたちは殺されました。

 

「戦争状態は、国内専制の言い訳のためにのみ奉仕する。」Alexander Solzhenitsyn

 

「国民のための戦争」か 

ちなみに、右翼の人や素朴な国家主義者のなかには、「WW2は日本人のための戦争だった」と考える人もいます。しかし、戦死者の半分以上が病死・餓死・溺死であり、「日本人のための戦争」ならここまで大量の兵士を見殺しにしないことは明らかです。

f:id:mikuriyan:20180516003403p:plain
引用元)伝染病は不可抗力のように思われるが、栄養失調により易感染となっている場合が多かったようだ。

人は戦争を求めない

はるか昔、人類は戦争をしてきませんでした。

 

狩猟採集民は、戦争をしなかったのではないかと言われています。彼らの活動範囲があまりにも広く、あまりにも人口密度が小さかったためです。他民族との衝突はあったかもしれませんが、土地を巡って戦争を起こすよりも、他の土地に移動したり、土地利用の時間をずらして共有するなどで解決していたようです。

 

人類が戦争に明け暮れるようになったのは、人が農耕民族となり、ひとつの土地に定住するようになってからです。事実、農耕民の弥生人は、縄文人よりも遥かに殺人が多い。

 

まさにルソーの言うように、「土地に囲いを付け、私の土地だと主張して、それを信じる単純な人々を見つけた最初の人間が、市民社会の真の創始者であった(「人間不平等起源論」拙訳)」ということです。

 

まとめ

 「人はなぜ戦争をするのか」という問いは不正確です。次のように問い直しましょう。「支配者はなぜ被支配者に戦争をさせたがるのか?」

 

その答えは、「支配者が戦争によって利益を得るから」。

 

戦争は一部の人間が望むのであって、大部分の人々にとっては悲劇でしかないのです。